2016年の米国大統領選挙を振り返って

中西 治

2017年1月20日にドナルド・J.・トランプさんがアメリカ合衆国大統領に就任し、2016年の米国大統領選挙は終わりました。この機会に今回の選挙結果をまとめておきます。

第一は、トランプさんとヒラリーさんの得票数と選挙人 (Elector) 数です。

私は2016年11月8日におこなわれた有権者の投票による「米国大統領選挙最終結果」を同月15日に Breaking: Final Election 2016 Numbers! | Alternative に基づいて次のようにお知らせしました。

ドナルド・トランプさん 得票数62,972,226 選挙人数306人
ヒラリー・クリントンさん 得票数62,277,750 選挙人数232人

ところが、2016年12月19日に選挙人によっておこなわれた投票結果は 2016 Presidential General Election Results によると、次の通りでした。

ドナルド・トランプさん 得票数62,980,160 45.94% 選挙人数304人、56.5%
ヒラリー・クリントンさん 得票数65,845,063 48.03% 選挙人数227人、42.2%
誓約違反選挙人(Write-ins) 得票数 1,126,145 0.82% 選挙人数 7人、 1.3%

ヒラリーさんの得票が大幅に増え、トランプさんの得票を286万4903票もこえました。トランプさんの得票も少し増えていますが、ヒラリーさんも、トランプさんも、選挙人数を減らしています。どうしてこうなったのでしょうか。

それは2016年12月19日におこなわれ選挙人投票のさいに両者の選挙人から次のような誓約違反選挙人が出たからです。

トランプさん支持の共和党の2人の選挙人がトランプさんではなく、共和党のジョン・ケーシックさんとリバタリアン党のロン・ポールさんに投票しました。

ヒラリーさん支持の民主党の3人の選挙人がヒラリーさんではなく、共和党のコリン・パウエルさんに投票しました。同じく民主党の2人の選挙人がヒラリーさんではなく、無所属のフェイス・スポッテド・イーグルさんと民主党のバーニー・サンダースさんに投票しました。

この結果、トランプさんとヒラリーさんの得票数と得票率から誓約違反選挙人の得票数と得票率が減らされ、上記のように新たに誓約違反選挙人の得票数と得票率が記載されるようになりました。

ヒラリーさんとトランプさんの得票数が増えているのは、有権者投票によって選挙人が確定した後に上積みされた票がそれぞれの得票に加えられたからでしょう。

第二は、トランプさんとヒラリーさん以外の大統領候補についてです。

日本ではほとんど話題になりませんでしたが、今回の大統領選挙には共和党のトランプさんと民主党のヒラリーさんの他に次の人々が立候補していました。その得票数と得票率は下記の通りです。

リバタリアン党のゲーリー・ジョンソンさん、得票数4,488,931、得票率3.27%。
緑の党のジル・スタインさん、得票数1,457,050、得票率1.06%。
無所属のエヴァン・マクマリンさん、得票数728,830、得票率0.53%。

この他に憲法党のダレル・キャッスルさんや社会主義・解放党のグロリア・ラリバさんなども立候補していました。彼らの得票数は合計453,694、得票率は0.33%でした。

第三は、ヒラリーさんとトランプさんの得票をどのように評価するのかです。

2015年の米国の人口は3億2177万人。大統領選挙の選挙権は18歳以上、被選挙権は35歳以上です。

今回2016年の米国大統領選挙の投票者は1億3707万9873人でした。得票数と選挙人数はヒラリーさんが6584万票と227人、トランプさんが6298万票と304人、合わせて1億2882万票と531人でした。

この結果を民主党のオバマさんが勝利した前回および前々回の選挙結果と比較します。

前回2012年の大統領選挙のときの得票数と選挙人数は民主党のオバマさんが6591万票と332人、共和党のロムニーさんが6093万票が206人、合わせて1億2684万票と538人でした。

前々回2008年の大統領選挙のときの得票数と選挙人数は民主党のオバマさんが6949万票と365人、共和党のマッケインさんが5995万票と173人、合わせて1億2944万票と538人でした。

2008年にオバマさんが大量得票しました。得票数と選挙人数でのマッケインさんとの差は954万票と192人でした。オバマさんの圧勝でした。

2012年にオバマさんの得票数が2008年より358万票減り、ロムニーさんとの差は498万になりました。選挙人数もオバマさんは2008年より33人減り、ロムニーさんとの差が126人になりました。それでも大勝でした。

今回2016年のヒラリーさんの得票は2012年のオバマさんの得票より7万票少なく、トランプさんの得票は2012年のロムニーさんの得票より205万票増えました。この差が大変大きな変化をもたらしました。

ヒラリーさんがフロリダ(選挙人29人、以下同様)、ペンシルベニア(20人)、オハイオ(18人)、ミシガン(16人)、ウィスコンシン(10人)、アイオア(6人)などで負け、選挙人99人を失いました。致命的でした。

第四は、得票数で負けながら、選挙人数で勝ち、大統領になった人々についてです。

米国では1776年に独立宣言が発せられ、1789年4月にジョージ・ワシントンが対立候補なしに初代大統領に就任してから今日までに得票数で負けたが、選挙人数で勝って、大統領になった人は、今回を含めて5人います。

最初の人は1824年のジョン・クインシー・アダムスさんです。彼は同じ民主共和党のアンドリュー・ジャクソンさんよりも得票が少なかったのですが、選挙人数で勝ち、当選しました。

二人目は1876年の共和党のラザフォード・ヘイズさんです。同じように民主党のサミュエル・ティルデンキさんに勝ちました。

三人目は1888年の共和党のベンジャミン・ハリソンさんです。民主党のグロバー・クリーブランドさんより得票は9万票ほど少なかったのですが、選挙人数で233対168と勝り、当選しました。

四人目は2000年の共和党のジョージ・W.・ブッシュさんです。得票数では民主党のアル・ゴアさんより54万ほど少なかったのですが、選挙人数で 271対266と勝り、当選しました。

五人目は今回のトランプさんです。

第五は、アメリカ合衆国とはいかなる国かという問題です。

アメリカ合衆国(The United States of America)は一つの国家=州 (State)ではなく、複数の国家から成る同盟(Union)です。合衆国は当初13の国家から成る同盟でしたが、現在は50の国家から成る同盟です。

このことを法的に規定しているのが、1787年9月17日に制定されたアメリカ合衆国憲法(The Constitution of the United States)です。この憲法の「前文」は「われら合衆国の人民は、より完全な同盟(Union)を形成するために…、このアメリカ合衆国憲法を制定し、確定する」と宣言しています。

この憲法によると、合衆国の立法機関である議会(Congress)は上院(Senate)と下院(House of Representatives)から成っています。両院はいずれも国家=州を基盤としています。

上院は州の大きさと人口の多少に関係なく各州から2名ずつ選出される上院議員によって構成されています。当初、上院議員は「各州の立法部によって」6年を任期として選出されていましたが、1913年成立の憲法「修正第17条」により、この「各州の立法部によって」が「各州の州民によって」と修正されました。合衆国の上院議員は各州の議会ではなく、各州の州民によって直接選出されるようになりました。現在の上院議員は100名です。上院議長は合衆国副大統領がなり、可否同数のときを除き、表決には加わりません。

上院はアメリカ合衆国が平等な国家の同盟であることを反映する組織です。

下院は最初から「各州の州民が2年ごとに選出する」議員で組織され、下院議員の定数は人口3万人に対して1人の割合を超えてはならないとされています。但し、各々の州は少なくとも1人の下院議員を選出します。現在の合衆国下院議員は435名です。

下院は各同盟構成国家の人口を反映して組織されます。

次に合衆国の執行機関である大統領(President)と 副大統領(Vice President)の選出方法についてです。大統領と副大統領の任期はいずれも4年です。

最初に各州は、その立法部が定める方法により、その州から連邦議会に選出することのできる上院議員および下院議員の総数と同数の選挙人を任命します。但し、上院議員、下院議員および合衆国から報酬または信任を受けて官職にある人を選挙人に選任することはできません。

1961年成立の「修正第23条」により首都ワシントンからも選挙人3名を選出できるようになりました。

これにより現在の選挙人は上院議員数100名+下院議員数435名+首都ワシントン選出3名=538名となりました。

2015年の推計で米国最大の人口3914万人を擁するカリフォルニアは選挙人定員が55名ですが、最小の人口58万人のワイオミングは3人です。選挙人1人当たりの人口はカリフォルニアが71万人強に対してワイオミングは19万人強です。577万人の人口を擁するウィスコンシンは選挙人10人を選出しますが、選挙人1人当たりの人口は57万人強です。州の人口が少なければ少ないほど少ない有権者で1人の選挙人を選出できるようにしています。

これは大きな国と小さな国が同盟を結び、維持・発展させていくための大きな国の小さな国に対する配慮です。これがときには得票数では勝ったが、選挙人数では負け、大統領になれなかったという事態を生み出すのです。この配慮がなければ、大国が常に勝ち、小国は常に負けることになるのです。それでは同盟は長期に維持できません。ときには負けることも必要なのです。

一般に「アメリカ合衆国大統領選挙」と言われている2016年11月8日におこなわれた有権者投票はこの538名の選挙人を選出するための選挙でした。

選挙人が確定した後に選挙人によって大統領選挙が実施されます。これが2016年12月19日におこなわれた選挙です。この選挙をどのようにおこなうのかは、1804年成立の「修正第12条」によって次のように定められています。

選挙人は、各々の州で集会して、無記名投票により、大統領および副大統領を選出するための投票をおこないます。そのうち少なくとも1名は、選挙人と同じ州の住民であってはなりません。選挙人は、一の投票用紙に大統領として投票する者の氏名を記し、他の投票用紙に副大統領として投票する者の氏名を記します。選挙人は、大統領として得票したすべての者および各々の得票数、ならびに副大統領として得票したすべての者および各々の得票数を記した一覧表を作成し、これに署名し、認証した上で、封印をほどこして上院議長に宛てて、合衆国政府の所在地に送付します。

これを受け取った上院議長は上院議員および下院議員の出席の下に、すべての認証書を開封したのち、投票を計算します。大統領として最多数の投票を得た者の票数が選挙人総数の過半数に達しているときは、その者が大統領となります。

このように、アメリカ合衆国大統領の当選を決めるのは有権者の投票ではなくて、有権者の投票によって当選した選挙人の投票です。選挙人が誰に投票するのかは選挙人の権限に属します。

今回はここまでにしておきます。