エッセイ 65 退職3か月の記

木村 英亮

退職後3か月を過ぎ、家のなかも片付き、勤めのない生活にも慣れてきた。もともと研究は自宅でしていたので、サラリーマンの退職とは違っているであろう。また、大学でも工学部系のばあいには実験設備から離れることになり退職は大きな区切りとなるかもしれないが、われわれのような文科系のばあいは、 文献や資料を読んだり書いたりが中心で、家での生活はあまり変わらない。講義やゼミで学生と接することはなくなったが、それは40年以上も繰り返してきた ことであり、50歳以上離れた学生に教えるのはそろそろやめる潮時であろう。

一番いいことは朝ゆっくりできることで、これはとてもありがたい。朝食後は、本を読んだりパソコンに向かったりで、調べることがあれば近くの図書館にでかけたり書店に行ったりである。週1,2回は、研究会や学会などに出席する。

全部の時間を自由に使えるのは恵まれたことである。長期、短期の計画をたてなければいけないが、当面はのんびりとこれまでを振りかえることが必要で、余裕なくあくせくすることはよくない。

ひとつの勤め先に拘束されるより世の中が広くなった側面もあり、一概に人間関係や視野が狭くなったともいえない。気をつけなければならないのは運動不足である。努めて散歩などに出るようにしている。

まだ辞めて3か月と短く、長めの夏休みというところで、40年以上の勤めのなかで出来上がった気持ちから抜けるのはなかなか難しい。これ からの人生を、単なる付録とせず、これまでの生活を完全にご破算にするくらいの心構えで、自由で自主的で積極的な新しい生活を組み立てなければならないと思っているところである。