4. 「2020年のシナリオ」とプーチン/メドヴェージェフの「2020年のロシア」 : 2020年のロシアとロシア・中国の現代化

中西 治

(1) 2020年のシナリオ

2020年に予想されているロシアのシナリオはつぎの三つである。

1 穏健に現代化されたロシア。『早く来すぎたプーチン、プーチンは改革者』

現在の路線の延長線上にあり、進化したもの。現行政治システムの基本的諸要素は維持され、「統一ロシア」が新しい権力党(与党)に変わることも含めて、諸政党の役割と自立性が強化される。これは現在よりも大きな権力分立と政治的競争の強化を求める。競争の強化は再政治化と政治参加の積極化の可能性を増大する。

かくして、2002-2003年の状況への回帰が、もちろん、若干の修正をともなって、新しい螺旋型の環において起こる。地方首長の直接選挙と上院(連邦会議)の真の地方代表機関化を含む、連邦主義の諸要素が復活する。経済では経済活動に対する国家の介入が弱まり、市場的性格がいっそう深まる。社会部門では保健・教育分野での質の低下が続き、もっとも積極的で教育をうけた起業家たちの海外流出が続いており、悪化が長引いている。イデオロギーの面では折衷的要素が強まっている。対外政策の面では力の諸中心間の均衡が続いている。

「穏健」は危機の可能性をまったく排除しない。その原因は変革の動きがさまざまであり、一様でなく、その間の矛盾、とくに、水平的・垂直的権力の分割と関連した矛盾が増大するからである。「穏健な現代化」のシナリオ内のシステムの諸要素が修正されたり、「現代化+」、もしくは、「権威主義化」のシナリオに移行しうるからである。

2 急進的に現代化されつつあるロシア。『ペレストロイカ=2、ネオ・ゴルバチョフ』

「穏健な現代化」、すなわち、諸政党に対する「上から」の統制は完全な二党制もしくは多党制のシステムをつくることを排除する。このためには権力の実際の分割と政治制度の強化をも前提とする「急進的現代化」が必要である。これは軍隊・警察などの実力機関に対する統制を含む、政府の活動に対する実際の統制を実行する完全な代表機関に議会を徐々に変えることをとくに意味する。おそらく、議会制統治制度がこの機能により良く適合するであろう。

権力と影響力のある市町村・地方レベルを有する完全な連邦主義も確立されるが、これらの地方自治体は独自の租税基盤によって保障された広範な一連の機能を実行する。

実業は権力から分離され、市場経済が強化される。国家は主として調整機能を果たし、現実の部門における国家の存在は最小化される。社会はさらに躍動性をおび、市民の社会的・地域的流動性は高まる。国内の住民の移動は増大し、外国への移住は激減する。対外政策ではヨーロッパ統合主義的傾向が強まる。

「急進的現代化」の道には発展の不均等と関連した水中の石が他の場合よりも多く、危機の可能性も高い。危機の一部はシステムを強化するが、一部は発展の軌道を権威主義化へと向かわせる。

3 権威主義化へ向かいつつあるロシア。『スターリン・ライト』

政治システムにおいて個人的要素が強まり、選挙が完全に骨抜きとなり、最終的に忠誠心を示す儀式となり、偽物の政党により構成される一党半システムになりはてる。この種の例となりうるのは、ベラルーシ、カザフスタン、および、一部のその他のポスト・ソヴェト体制である。

権威主義的モデルの枠内で実行されるのは、統治をしやすくするために諸地域を拡大すること、または、8連邦管区を完全な「一つの階」の権力組織とすることである。いずれの場合も中央集権的・一元的傾向が強まる。

垂直的な各段階の権力組織の活動をいっそう厳格に調整し、それらの権力組織を拡大し、諸主要派閥の利益を調停するために「ポリトビューロー(政治局)」をつくることも求められる。軍隊・警察などの実力機関の役割を強化し、政治的競争が存在しないのを補う粛清機関を導入することも避けられない。

経済では権力エリートに完全に従属している「国家コーポレーション」と「仲間による個人ビジネス」の領域が拡大する。中央集権的政府によりいっそう厳格に調整される賃貸料の再分配をともなう「賃貸料追求モデル」が強まる。

国家と社会との関係では「家父長主義的モデル」が強まり、「包囲された要塞」の感情が広く行き渡る。このような路線はこれに賛成しない人々の大量出国をもたらし、同時に、民族主義的傾向を増大させる。これは一部の民族地域の非統合、事実上の分離に至る民族間紛争の脅威をはらんでいる。外の世界との関係でも紛争の諸要素が強まる。

権威主義化のシナリオのもとでの紛争と危機はつぎのことによって起こりうる。エリート派閥とコーポレーションが内部で競争すること、ロシアのような大きな国を中央集権的に統治することが本質的に不可能なことに加えて不均等に発展すること、統治の効率がいっそう低下すること、外からの挑戦に適切に対応できないことなどである。

(2) プーチンとメドヴェージェフの「2020年のロシア」

2008年2月8日、当時大統領であったプーチンはクレムリンの下院拡大会議で「2020年までのロシアの発展戦略」と題してつぎのように演説した。

ロシアの未来と私たちの成功がかかっているのは、人々の教育と健康、自己の習性と才能を自己完成し、利用しようとする人々の志向である。ロシアは人間が一生においてキャリアを増やし、社会的・物質的地位をいちじるしく高めるための可能性でもっと良くなければならない。私たちの経済の効率を急激に高める課題を解決するさいに、私たちはあらゆる方向に動けるように刺激と条件をつくりださなくてはならない。

提起されている目標を実現するためには、国家統治に対するまったく新しい要求が必要である。このような巨大な国家セクターが国家にとって手に負えなくなり、何の役にも立っていないことは明かである。多数の施設および組織は市場に合致しなければならないし、それが存在している事実に対してではなく、結果に対して支払いを受けなければならない。その指導者は統治の質に対して個人的責任を負わなければならない。

民主主義国家は市民社会の自己組織化の効果的道具とならなければならない。私たちの民族問題を解決するためには、国際関係の平和的な、肯定的な工程表が私たちに必要である。もっとも重要なのは、国の発展計画がロシア社会のすべての構成機関が参加する広範な審議を経ることである。このような審議は一つの話し合いでは終わらない。結果はロシア連邦政府による2020年までの国家の社会・経済発展の基本理念と上述のすべての方向にわたる具体的行動計画の採択である。

今日、私たちは、生活の質を変え、国と国の経済および社会領域の質を変える、きわめて野心的な課題を提起している。ロシアには勤勉な、教育ある人々がいる。ロシアには膨大な天然資源と豊かな科学的潜在力がある。提起されている目標の達成を許さない重大な理由など何一つもない。私たちの国が今後も、世界のリーダーの一つとしての地位を強化し、私たちの市民が満足に生活することを、絶対的に確信している。

2008年2月15日、当時  第一副首相であったメドヴェージェフも第5回クラスノヤールスク経済フォーラムで「2020年のロシア国の主要発展課題」と題して演説した。

彼はまず1週間前におこなわれた2020年までの国の主要発展方向についてのプーチン大統領の演説に触れ、次のように語った。

これは、良き生活基準を提起する社会、人々の才能と能力を自立的に実現するために平等な可能性を与える社会の建設である。これは、イノヴェーション型の経済発展と経済効率の顕著な向上である。最後に、これは広範な中産階級の形成である。このようなロシアは、市民が偉大な過去だけではなく、現在を誇りにしている国となるであろう。

私たちの国は現代世界の中で生活のための良き場所である。これらの方向は野心的であり、絶対に現実的である。その実現のためには責任ある一貫した政策が必要である。その政策の中心にあるのは、人々であり、数百万のロシア家族の未来である。

私たちの政策の基礎にある原則は、高い生活基準の達成をめざしている、すべての現代国家の活動においてもっとも重要と考えられているものである。それは、「自由は不自由よりは良い」という人間経験の精髄である。問題は個人の自由、経済的自由、さらには、自己表現の自由など自由が表れるすべての場における自由である。

私たちがこれからの4年間に集中すべきことは、基本的な方向とつぎの四つの独特な「I」に向けてである。Institute(教育研究機関)、Infrastructure(基本設備)、Innovation(技術革新)、Investment(投資)である。

プーチンとメドヴェージェフのこの演説はプーチンが8年間の大統領の任期を終え、代わってメドヴェージェフが大統領選挙に出馬し、当選し、大統領になる直前におこなったものである。これは二人の2008年大統領選挙に向けての選挙公約であった。その後、彼らはメドヴェージェフが大統領、プーチンが首相として4年間、「双頭」政治をおこない、今回、2012年にふたたびプーチンが大統領、メドヴェージェフが首相になった。2008年の彼らの「2020年のロシア」はいまも生きている。