2. ロシア発展のシナリオと世界的枠組みおよび国内的要素 : 2020年のロシアとロシア・中国の現代化

中西 治

本書の編者たちは、2020年までのロシア発展のシナリオを規定するものとして、現在の世界秩序とその中でのロシアの地位といった世界的枠組みとともに、ロシアの体制に転換を促すつぎの四つの国内的要素をあげている。

第一は体制転換の動因となるドライバー (drivers)、具体的には経済と統治である。

第二は体制転換の引き金となるトリガー (triggers)、具体的には統治の機能不全と国内の政治危機、および、システム内に蓄積されている内的緊張の噴出である。

第三は体制の危機を示すリスク(risks)、具体的にはロシア社会が内包する危険である。

第四は体制転換の分岐点となるクロスロード(crossroads)、具体的には大統領選挙や下院選挙である。

そこで、まず、これらの世界的枠組みやロシア国内の諸要素を検討しよう。

(1)  世界的枠組み

基本的な対外的枠組みとしてあげられているのは、全体的な世界政治経済秩序とそこでロシアが占める地位である。ロシアの経済と政治が大きく依拠しているのは、世界経済、なによりも、化学原料、とくに、石油、ガス、その他の炭化水素の価格動向である。化学原料の価格動向の影響は直線的でないだけでなく、一方向的でもない。

たとえば、引き続く価格の高騰は経済の単純化、および、政治システムの単純化と関連した「ロシア病」の深化をもたらすだけではない。エネルギーの高値は、別の結果として、世界経済発展の鈍化と原料需要の低下をもたらす。そのことはまた原料モデルそのものの基盤を破壊する。

ロシアの近隣諸国を含む旧ソヴェト地域で起こっている過程もきわめて重要である。それは、ときにはロシアの力の追加的源泉(ロシアとの共通の労働・資本市場、消費市場)となれば、ときには弱化の源泉(西側の労働力と注意を引きつける競争)となる。

ソヴェトと違ってロシアは開かれたシステムである。いまではロシアは外国から財的資本と人的資本を導入するためだけではなく、自国の資本を保持するために厳しい競争をしなければならない。

(2) ドライバー(動因)

システムの変更を条件づける動因となりうるのは経済と統治である。経済はシステムの活動を維持するために、つねに財政資金の増大を保障しなければならない。システムの効率がつねに低下しているのであるから、統治は改善されなければならない。経済と統治の二つの要因は相互に関連している。

財政資金の増大がなく、統治の不効率が増大するのを償えないときには、システム内の緊張を増大させることになり、改革を促すことになる。このとき、経済と統治におけるそれほど大きくない停滞でさえ、重大なシステムの危機へと向かい、別の軌道への転換をもたらすことになりうる。

ロシアのエリートにも、市民にも、システムを発展させるための独自の、内的なエネルギ―がない現在、システムは反動的な発展モデルを求める。このようなエネルギーが現れても、それを建設的な方向に振り向けさせるメカニズムは存在しない。

(3) トリガー(引き金)

変革のメカニズムを稼働させる引き金となりうるのは、統治の機能不全と国内の政治危機、および、システム内に蓄積されている内的緊張の噴出である。カフカス(コーカサス)における制御不能となった民族間緊張の増大はこの内的緊張の噴出の例である。ねじ山の損傷だけでなく、ねじをきつくしめようとする試み、もしくは、逆にねじをゆるめようとする試みも引き金となりうる。

システムのさまざまな部分の変更と行動の不一致も発展の非慣性的シナリオへと導くシステムの機能不全を促進する。このような事態の進行が可能となるのは、2011年末の政治的危機の発展のときである場合や、来るべき2012年から2013年にかけての時期に、諸政党が未発達で、社会的緊張を放出するチャンネルが存在しない中で、よりいっそう厳しい社会政策へと移行する場合である。

1989年におこなわれた比較的自由な選挙も強い引き金となりうる。このさい、一つの強力な振動は必ずしも必要ない。システムを変革へと進ませる幾つかのより小さな要素があれば十分である。

(4) リスク(危険)

対外的危険は世界における経済的・政治的不安定と結びついている。経済危機、もしくは、原料需要と原料価格の低下は2008-2009年の諸事件が示したように、ロシア経済に大きな痛手を与える。もう一つの対外的危険はロシアの国境地帯の深刻な不安定、とくに、中央アジアの危険な不安定である。

このような危機は多くの国内的な危険をも引き起こす。そのうちのもっとも重要なものの一つは北カフカス(大カフカス山脈の北部)の絡み合った諸問題である(北カフカス諸共和国における緊張とテロ活動のいっそうのエスカレーション、民族間紛争の先鋭化、モスクワおよびその他の中心地での大規模なテロ行為)。北カフカスの挑戦は、多くの場合、統治制度の弱さ、汚職等々、全ロシア的問題である。

この他、危機の原因となっているのは、老朽化したインフラストラクチュアによる人為的事故であり、大惨事である。社会的インフラストラクチュアの低下、とくに、保健・教育における過去20年間の急激な悪化がつぎの10年間に急激な崩壊をもたらすであろう。財政機関も、統治機関も、ここで指摘した否定的な結果を防止することができず、縮小できない。好ましくない環境が重なりあって、それらはいっそう深刻になる可能性がある。これから先10年間現状を維持することは本質的に不可能である。

200年前に作家ゴーゴリは「ロシアの主要問題は馬鹿と悪い道路である」と述べた。今流に言えば、「統治(官僚)とインフラストラクチュア」である。

なによりも全地球世界と結びついた新しい危険もある。それは住民のうちのもっとも地位が上昇した部分である起業家たちの大量出国と外国市場への従属である。