ヒッグス粒子とは何か〈宇宙の誕生と哲学・物理学の発展〉

中西 治

ヒッグス粒子とは何か

ヒッグス粒子は宇宙誕生直後に、光速で飛び回る素粒子に対した水あめのように作用して、動きにくくしたといわれていますが、『大宇宙――完全版――』には「ヒッグス粒子」は一度も登場しません。

村山斉は2010年に出版した『宇宙は何でできているのか』で「まだ正体のわからない(本当にあるかどうかもわからない)粒子に名前をつけるのは問題があるので、私は勝手に「暗黒場」と呼んでいます。」と書き、2011年に出版した『宇宙は本当にひとつなのか』で「もし、重力子やヒッグス粒子がないということになると、素粒子理論を書き替えることになりますが、影響はそれだけではありません。宇宙の枠組みも変わってしまうほど大きな事件となるのです。」とヒッグス粒子の重要性を指摘しています。そして、「ヒッグス粒子か 発見」の報をうけて、2012年7月5日の『朝日新聞』朝刊に「21世紀の物理の新たな扉を開いた」との感想を寄せています。

中嶋彰は『現代素粒子物語』で「ヒッグス粒子がつくり出すヒッグス場は宇宙の真空にもともと存在していた」といいます。それは私たちが暮らす現実の空間に目に見えない水蒸気があるようなものです。水蒸気の一部は雨(水滴)になります。それと同じように真空中のヒッグス場も自らを変質させ、周囲に影響を与えはじめ、クォークなどの粒子の運動にブレーキをかけ出したとしています。

何故そうなるのか。中嶋彰は「自発的対称性の破れによってヒッグス場の強度がゼロからある水準まで強まり、それに応じて弱荷を備えた粒子には次第に質量の発生・増大という影響が及んでいく」という説を紹介していますが、専門家もよく分かっていないようです。ヒッグス粒子を発見するのも大変難しかったのですが、その役割を説明するのも大変困難なようです。今後の研究が期待されます。