10.スピールの未来観 : ユニバーサル・ヒストリーと宇宙・地球・人間の将来

中西 治

スピールは前記の書の最終章「未来に面して」で「ユニバースの長い未来のきわめて短い概観」について米国の物理学者フレド・アダムスとグレグ・ラフリンが1999年に出版した書『ユニバースの五つの時代:永遠の物理学の中で』 (Fred Adams / Greg Laughlin, The Five Ages of the Universe: Inside the Physics of Eternity) を紹介しています。

ここまで、この講義ではビッグ・バンによる宇宙の誕生から今日までの宇宙の過去については、「現在から137億年前」というように、現在を基準として遡って考えてきましたが、アダムスとラフリンは、ビッグ・バンによる宇宙の誕生を出発点とし、現在を「宇宙の誕生後137億年」としています。これはユニバースがダーク・エネルギー (正体不明の暗黒エネルギー、引力ではなく、遠ざけようとする斥力をおよぼすものと考えられています) の結果として拡大し続け、これからも非常に長いあいだ存在続けるという考えにもとづいています。

この長い年月を表すものとして考案されたのが、「10の x 乗年後」という「宇宙論の10年間 (cosmological decade) 」の概念です。たとえば、「10の1乗後」は「10年後」、「10の2乗後」は「10×10=100年後」、「10の3乗後」は「10x10x10=1000年後」となり、10倍ずつ増えていきます。「10の10乗後」は「10000000000=100億年後」、「10の14乗後」は「100000000000000=100兆年後」となります。

この「宇宙論の10年間」にもとづくスピールとクリスチャンの宇宙の未来年表は次のようなものです。

「スピールの宇宙の未来年表」
(1) 現在は「宇宙の誕生後137億年」であり、「10の10乗後=100億年後」を終え、「10の11乗後=1000億年後」に入っている。
宇宙誕生後「二番目の時代」、「星がいっぱいの時代 (Stelliferous Era) 」である。
太陽の残された寿命は50億年ほどである。この間に太陽の温度が上がり、輝きが増し、いまから30億年ほどのときに地球の表面が沸騰し、乾燥する。そのときまでに地球上の生命は太陽放射の増大によって存在しなくなる。人間の生命も終わる。
(2)「14番目の宇宙論の10年間=100兆年後」は銀河の中の水素雲が枯渇した結果として星の形成が終わる。
(3)その後は「退化時代 (Degenerate Era) 」。
(4)さらに、その後の「35番目の宇宙論の10年間」は「ブラック・ホール時代 (Black Hole Era) 」。
(5)最後の「131番目の宇宙論の10年間」は「ダーク時代 (Dark Era) 」。

「クリスチャンの宇宙の未来年表」
(1)「10の14乗年後」は、ほとんどの星が死に、宇宙は冷たい物体、黒い矮星、ニュートロン星、死んだ惑星 / アステロイドおよび星のようなブラック・ホールによって支配される。生き残った物質は宇宙が拡張を続けられるように分離される。
(2)「10の20乗年後」は、多くの物体が銀河から漂流し、これらの残存物は銀河のブラック・ホールに吸い込まれて崩壊する。
(3)「10の32乗年後」は、プロトンがほとんど崩壊し、エネルギーとレプトンとブラック・ホールの宇宙を残す。
(4)「10の66乗年後―10の106乗年後」は、星と銀河のブラック・ホールが蒸発する。
(5)「10の1500乗年後」は、量子“トンネリング(トンネル効果)”を経て、残存物質が鉄に変わる。
(6)「10の10乗の76乗年後」は、残存物質がニュートロン物質に転換し、ブラック・ホールに吸い込まれ、蒸発する。

これらの年表によると、現在は宇宙誕生後100億年を経て、二番目の1000億年後の時代に入り、「星がいっぱいの時代」です。太陽の残された寿命は50億年ほどです。いまから30億年ほどのときに地球上の生命は存在しなくなり、人間の生命もなくなります。宇宙そのものはこれからも長く存在しますが、いずれ、なくなります。

しかし、そこまでいくのは、まだ相当先のことです。そこで、ここでは人間の将来についてスピークによりながら、もう少し考えてみることにします。

人間が誕生し、生きていくためには水と空気と適当な温度と気圧が必要です。これは自然が与えるものです。このような条件のある「生命居住可能領域」に人間は現れました。さらに人間が生き続けるためには食べ物をはじめとする物質と暖をとったり、物を煮たり、焼いたり、機械を動かしたりするエネルギーが必要です。

スピールは複雑なものの興亡が過去全体にわたって、あのゴルディロックス境界線内の物質を通してのエネルギーの流れの結果であったとするならば、これが将来においても、そうであるだろうと予測することは理にかなっていると述べ、このような考えにもとづいて彼は将来についてのシナリオを書いています。ただし、未来学はデーターのない学問であり、彼が提起する未来についてのイメージも彼がもっともらしいと考えるシナリオであるとことわっています。

まず、エネルギーの入手可能性です。スピールはデイヴィッド・ストラーハン (David Strahan) が国際エネルギー局の資料にもとづき、2008年に英国の科学雑誌『ニュー・サイエンティスト (New Scientist) 』に発表した論文を紹介し、世界の再生不能エネルギーの枯渇予想年を伝えています。

これによると、頁岩(けつがん)を含むオイルは最大限100年、石炭も同じく、最大限100年、メタン・クラスレート(包接化合物)を含む天然ガスは最大限200年、ウラニュームは数十年間である。もちろん、この予測はきわめて大雑把なものです。すでに多くの人々が人間の化石燃料への依存はもはや長くは続かないことを理解し、太陽エネルギーの開発などに努めています。

このあと、スピールは「重要な資源の枯渇とエントロピーの増大」、「人間は他の諸惑星に移住するのか」について論じ、「まとめ」として次のように述べています。

私にとっても、他の多くの人にとっても、私たちの人間の将来についてのもっとも根本的な質問は、惑星地球の住民が多かれ少なかれ持続可能な未来の目的地に到達するために、道理ある調和にもとづいて、協力できるのかどうか、または、さまざまな社会の中での、および、さまざまな社会の間での、力の不平等な配分や豊かな人と豊かでない人との間の現在の大きな亀裂がこのような意図をめちゃくちゃにするのではないかどうかということである。

再生可能エネルギー体制のもとで、資源が、今日の豊かな社会におけるよりも、おそらく、より制限されたものとなるとするならば、主要な質問は、すべての人間が道理あるゴルディロックス境界線内で生活できるようになるかどうかということになる。加えて、エネルギーと食糧生産を必要としている惑星上のすべてが野生の種の生活と繁栄のための場所として自分の部屋を離れるかどうかである。

このような文脈のもとで、人間は生き残りと再生産のために必要とするもの以上の物質とエネルギーを入手しようとする性質が遺伝子学的に組み込まれているようだという、本書第5章「地球上の生命」で表明された考えを呼び起こすことは無駄ではないであろう。もしも、これが本当にそうであるならば、人間は地球上での彼らの存在のゴルディロックス境界線を逸脱し続けるような傾向を遺伝子学的に持つのではないだろうか。もしも、そうであるならば、私たちはこの生物学的本能を文化の助けを借りて抑えることができるのであろうか。いかなる社会的環境がこのようなタイプの行動を助けるのであろうか。さらに、持続可能性が実際に何を意味するのかはきわめて不明瞭である。人々が保持することを望むものは何かということにきわめて大きく依存しているからである。

今日この問題についてコンセンサスがないのに、将来の世代が保持することを望むのは何であるのかはさらにいっそう不明瞭であるからである。しかれども、人間がいくらかの満足感をもって良き地球上で生き残るものとすると、これは、私の子供たちを含む私たち全員が折り合わなければならないもっとも根本的な問題であるだろう。

生物学では、非不作為排除の過程は一世代だけに作用する。ある一つの種がうまく自己再生産に成功している限り、それは非不作為的に排除されてはいない。今日、私たちはこのタイプの再生産が私たちの惑星上に住む多くの人にとって多かれ少なかれ保障されている状況に直面している。それは私たちの子供たちが直面している環境がきわめて激しく変化している場合においてさえである。

私たちの問題は一世代をこえておこる緊急事態に対応しなければならないことである。経済と政治の両面において普通は短期の結果について過大な評価がつくような状況の中でかなり多くの人の間でこのような長期的文化的ビジョンを私たちは生み出すことができるであろうか。換言すれば、私たちの生物学的本能と社会的調整の両方を文化の助けを借りておさえることができるのであろうか。

このあと、スピールはチャールズ・パーシ・スノー (Charles Percy Snow) が1959年にケンブリッジ大学でおこなった講義と同年に出版した著書『二つの文化と科学革命』で提起した「科学とヒューマニズム」という「二つの文化」の概念と理論的枠組が自然科学と社会科学の再統合に貢献できるのかも知れないと述べています。

スピールは、この理論的アプローチで主要な役割を果たしているのが熱力学の第二法則であり、この法則とこのアプローチの利用が二つの文化のギャップに橋を架け、克服することに役立つと考えています。彼はこれからも偉大な過去についての彼の考えを大いに平易化するだけでなく、近い将来に人間が直面しなければならない主要な問題を明らかにするために努力すると述べています。