7.フレット・スピールの『ビッグ・ヒストリーと人間の将来』: ユニバーサル・ヒストリーと宇宙・地球・人間の将来

中西 治

フレット・スピール (Fred Spir) はオランダのアムステルダム大学の教員で、1994年からビッグ・ヒストリーを講じ、1996年に『ビッグ・ヒストリーの構造 (The Structure of Big History) 』、2010年に『ビッグ・ヒストリーと人間の将来 (Big History and the Future of Humanity)』を出版しています。後者の『ビッグ・ヒストリーと人間の将来』は8章から成り、第1章「ビッグ・ヒストリー入門 (Introduction to Big History) 」、第2章「全般的アプローチ (General Approach) 」、第3章「宇宙の進化:複雑なものの単純な形態の出現 (Cosmic Evolution: The Emergence of Simple Forms of Complexity) 」、第4章「私たちの宇宙の隣人:より偉大な複雑なものの出現 (Our Cosmic Neighborhood: The Emergence of Greater Complexity) 」、第5章「地球上の生命:複雑なものの分布範囲の拡大 (Life on Earth: The Widening Range of Complexity) 」、第6章「初期人間史:もっとも偉大なよく知られている複雑なものの出現 (Early Human History: The Emergence of the Greatest Known Complexity) 」、第7章「最近人間史:もっとも偉大なよく知られている複雑なものの発展 (Recent Human History:The Development of the Greatest Known Complexity) 」」、第8章「未来に面して (Facing the Future) 」です。

スピールはもともと遺伝子研究の専門家であり、生化学者であり、後に文化人類学や社会史なども学んだ多彩な人です。それは『ビッグ・ヒストリーと人間の将来』に掲載されている次の「ビッグ・ヒストリーの短い年表」を見、以下の文章を読んでも分かります。

「スピールのビッグ・ヒストリーの短い年表」

(1)宇宙の進化:複雑なものの単純な形態の出現
1950年の現在から137億年前 ビッグ・バン、宇宙誕生、現在までずっと膨張を継続。
ビッグ・バン後最初の4分 素粒子、プロトン、ニュートロン、エレクトロン、ニュートリノの出現。
4-15分後 ジュウテリウム (重水素)、ヘリウム (気体元素)、リチウム (金属元素)、ベリリウム (耐腐食性で有毒の銀白色の金属元素)の核種合成。
5万年後  放射時代 (Radiation Era) から物質時代 (Matter Era) への移行
40万年後  宇宙の中和と宇宙背景放射の出現
7億年から20億年後 銀河と星の出現

(2)私たちの宇宙の隣人:より偉大な複雑なものの出現
91億年後=現在 (1950年) から46億年前 わが太陽系の出現
46-45億年前  内惑星(木星と火星との間にある小惑星帯 (the asteroid belt)
より内側にある惑星 (水星・金星・地球・火星) の出現
45-39億年前  宇宙衝撃を含む冥王代 (Hadean Era)

(3)地球上の生命:複雑なものの分布範囲の拡大
38-35億年前  生命の出現
34億年前    最古のストロマトライトと光合成の出現
20億年前    大気圏に自由な酸素出現、真核生物細胞出現
5億4000万年前 カンブリアン紀に複雑な生命体急増
4億年前     生命体が地上に出る
2億年前     温血動物の出現
6300万年前   アステロイド・インパクトがおそらく恐竜の君臨を終わらせ、哺乳類のための部屋をつくったのであろう。

(4)初期人間史:もっとも偉大なよく知られている複雑なものの出現
400万年前    二本足のアウストラロピテクスの出現
200万年前    ホモ・エレクトスの出現
20万年前     ホモ・サピエンスの出現

(5)最近人間史:もっとも偉大なよく知られている複雑なものの発展
1万年前     農業の出現
6000年前    最初の国家の出現
500年前     グロバリゼーションの第一の波
250年前     グロバリゼーションの第二の波(工業化)
60年前      グロバリゼーションの第三の波(情報化)

スピールのキーワードは「複雑なもの」です。ビッグ・バンのとき「複雑なもの」は存在しませんでした。それが「放射時代」にもっとも小さな規模で「複雑なもの」が出現し、「物質時代」に原子と分子の規模で「複雑なもの」が出現しました。「銀河形成」のときに、より大きな規模で「複雑なもの」が出現しました。星が出現しました。

銀河のなかの太陽系の地域を「銀河系のハビタブル・ゾーン (The Galactic Habitable Zone) 」と言います。「生命居住可能領域」です。人間が住むためには水と空気が必要であり、寒すぎでも、暑すぎでもなく、適当な気圧という環境が必要です。このような環境を英国の童話「ゴルディロックス(女の子の名前)と3匹の熊」に因んで「ゴルディロックス環境 (Goldilocks circumstances) 」と言います。工業生産には農耕や動物飼育よりも厳しい条件が求められ、工業社会は、通常、摂氏マイナス20度からプラス35度の間の温度地帯に出現します。地球にはこのような環境が揃っていました。だから、「もっとも偉大なよく知られている複雑なもの」人間が出現し、発達しました。人間は「複雑なもの」の最たるものです。