6.W.H.マクニールの『世界史』: ユニバーサル・ヒストリーと宇宙・地球・人間の将来

中西 治

米国の歴史家ウィリアム・H・マクニール (William H.McNeil) はクリスチャンの著書に序文を寄せ、この著作を天と地球とを運動の不変の3法則のもとで統合した17世紀のニュートンや人類と他の生命体とを単一の進化過程のなかで統合した19世紀のダーウィンの著作にも比する「偉大な業績 (a great achievement) 」と高く評価しています。

マクニール自身は1963年に『西洋の興隆 (The Rise of the West) 』を出版して注目を浴びた世界史家であり、この書にもとづいて、1967年に『世界史 (A World History) 』を上梓しています。この『世界史』は版を重ね、1999年に第4版が出版されました。ここでは第4版の訳書(増田義郎・佐々木昭夫訳『世界史』上下、中央公論新社、2008年)を参照しました。マクニールは次のように書いています。

ホモ・サピエンスが原(プロト)人類の集団の間から出現したとき、人間の歴史は始まる。その歩みは、さだめしひじょうにゆっくりしたものであったにちがいないが、約十万年前の時代までに、生物学的に現代人の特徴をそなえたいく種類かの人間が、ばらばらに狩猟民の小集団をなして、アフリカのサヴァンナ地帯をさまよい歩き、おそらくはアジアの生活条件のよい温暖な地帯に住みついていたと思われる。

かりに現生人類がひとつの地理的中心で生まれたとしても、そこから最古の人類が四方に広がった状況は、なにひとつたしかにわかっていない。小さな生物学的変化がおこったであろうことは、現在の人類の間で見られる人種のちがいを見ればわかる。しかし、いつどこで現在の人種が形成されたかは不明である。しかし、幸い歴史家はそのような問題を不問に付してかまわない。なぜかと言うと、歴史時代を通じて人間の行為に影響を与えている変数は、われわれの知る限り、さまざまな人間集団の中における生物学的変種とは一応無関係と考えられるからである。

いや、文化の差異ですら、はじめのうちはあまり顕著でなかった。

マクニールは20世紀末においても歴史を10万年ほど前から論じ始め、本格的に論じているのは5000年ほど前のシュメル文明からです。これが20世紀末における世界史家の常識でした。