2.H.G.ウェルズの『歴史のあらまし(世界文化史大系)』と『世界史概観』: ユニバーサル・ヒストリーと宇宙・地球・人間の将来

中西 治

ハーバート・ジョージ・ウェルズ (Herbert George Wells) は1866年9月21日にイングランドで生まれました。父は小さな雑貨商を営むかたわら、セミ・プロのクリケット選手をしていました。ウェルズが10歳の時に父が骨折し、クリケットができなくなり、収入が減り、ウェルズが14歳の時に一家は離散しました。ウェルズは服地屋の小店員になりましたが、努力して1883年にグラマー・スクール (中学校) の代用教員として勤めるようになりました。翌年には科学師範学校に入学し、進化論者のトマス・H・ハクスリーに学びました。平和主義的社会主義者ウェッブ夫妻とも知り合いになり、1890年に「フェビアン協会」に入りました。1895年に『タイム・マシン』、1897年に『透明人間』といった空想科学小説を発表し、一躍、有名となりました。

ウェルズは1902年に『歴史のあらまし (The Outline of History) 』を出版し、新たに歴史家として登場しました。この本は後に2巻本の大著となり、1919年から1920年にかけて出版され、日本では『世界文化史大系』全5巻として1921年から1922年にかけて翻訳・出版されました。訳者は佐野学、北川三郎、波多野鼎、新明正道です。英国の女性歴史家クロスレイ (Pamela Kyle Crossley) はこの書を「大きな影響力のある地球史 (global history) の一つ」と評価しています。

ウェルズはさらに1922年に『世界史概観 (A Short History of the World) 』を出版しました。これは前著『歴史のあらまし (世界文化史大系) 』の単なる抜粋、ないしは、圧縮ではありません。それはいっそう広い展望をもった歴史であって、彼が新たに計画して書き下ろしたものでした。それは人類の偉大な冒険に関する自分の色あせた、または、断片的な概念を新鮮にし、また、修復したがっている多忙な一般読者の要望に応じようとしたものでした。

この書は後に二度改版されています。最初の改版は1946年8月13日の死の直前にウェルズ自身がおこなったものです。二度目の改版は1965年に科学者である子息のG. P. ウェルズと歴史家レイモンド・ポストゲート (Raymond Postgate) がおこなったものです。私はここで第二次大戦直後のH. G. ウェルズがどのような世界史認識をもっていたのかを明らかにするために、長谷部文雄・阿部知二訳『世界史概観』上下、岩波新書、1966年によって、著者自身による最初の改版を検討します。これによっていまから65年ほど前、第二次大戦終結直後の英国の歴史家の世界史認識を知ることができます。