1. 同学の士 : ユニバーサル・ヒストリー(宇宙地球史)入門(3)

中西 治

フレット・スピール

フレット・スピール(Fred Spier)はオランダのアムステルダム大学学際研究所上級講師で、1994年からアムステルダムでビッグ・ヒストリーの年間コースを組織し、遺伝子工学の研究経験をもつ生化学者として教育に当たった。

彼はその後、文化人類学を研究し、文化人類学と社会史で博士号を取得した。この間に彼はペルーにおける宗教と政治の1万年にわたる相互関係を研究し、2冊の本を出版した。

フレット・スピールは1996年にアムステルダム大学出版会から『ビッグ・ヒストリーの構造:ビッグ・バンから今日まで(The Structure of Big History:From the Big Bang until Today)』を出版、2009年からは新設されたアムステルダム大学カレッジでビッグ・ヒストリーのコースを教えている。ビッグ・ヒストリー研究・教育の草分けである。

彼は2005年に「アムステルダム大学におけるビッグ・ヒストリー・コースの小さな歴史」を『World History Connected』Vol.2 No.2に発表し、2010年に新著『ビッグ・ヒストリーと人間の将来(Big History and the Future of Humanity)』Oxford:Wiley-Blackwellを上梓した。

デイヴィッド・クリスチャン

デイヴィッド・クリスチャン(David Christian)はオーストラリアのマッコーリー大学現代史・政治・国際関係・安全保障学部教授であり、1989年からビッグ・ヒストリーに関するコースを発展させ、教えた。

彼はもともと現代ロシアとソヴェトについての歴史家であり、19世紀ロシアの社会史に関する研究書を出版している。

彼はこうしたビッグ・ヒストリーとロシア史というスケールの大変異なる二つの歴史の間のギャップをユーラシア大陸全体の歴史を完成させることによって橋渡ししようとしている。

主著は2004年にバークレイのカリフォルニア大学出版会から上梓した『時の地図:ビッグ・ヒストリー入門(Maps of Time:An Introduction to Big History)』である。この本は2011年に新しい序文を付けて第2版が出版されている。

デイヴィッド・フックス

デイヴィッド・フックス(David Hookes)は連合王国(以下、英国と略称)リヴァプール大学コンピューター科学部名誉上級研究員である。

彼は2007年に催された左翼フォーラム「急進派の政治的将来を設計する」に報告「二つの将来の歴史」を提出し、気候変動問題について論じている。

また、「マルクス主義政治経済学の“量子理論”と持続可能な発展」や「マルクス主義の実証主義者的否定としてのボリシェヴィズムからの諸教訓」などの論文を発表している。

彼は後者で「ロシア革命はとくにロシア人民にとって悲劇であっただけではなく、それは、また、人間の残りの部分にとってもそうであった。」と論じている。

彼はさらに「西洋左翼の私たちの多くにとって、とくに、トロツキスト的背景を持つ者にとって、ロシア革命が歴史的悲劇であったという事実を受け入れることは大変困難であるが、私たちはそれを受け入れなければならないというのが、私の意見である。」と述べている。

アコプ・ナザレチャン

アコプ・ナザレチャン(Akop Nazaretyan)はロシア科学アカデミー東洋学研究所上級研究員としてクロス・カルチャーの研究に従事し、国立モスクワ大学教授でもある。彼はモスクワ郊外ドゥヴナにある国立国際大学社会学人文学部教授でもあった。専門は大災害と大衆心理の理論である。

彼は1996年に「世界文化発展における攻勢、道徳、危機」、2003年に「攻勢的群集、大衆パニック、風評。社会・政治的心理講義」、2005年に「社会的自主組織の1ファクターとしての死の恐怖」、「ビッグ・ヒストリーの西洋的伝統とロシア的伝統」、「暴力と忍耐:文化人類学的回想」、「ビッグ(ユニバーサル)ヒストリー・パラダイム:ヴァージョンとアプローチ」などの論文を執筆している。

ナザレチャンは2004年に『ユニバーサル・ヒストリーの文脈の中での文明危機。自主的組織、心理学、予測。(Civilization Crises within the Context of Universal History. Self-Organization,Psychology,and Forecasts)』、2008年に『自主的組織の暴力と文化の文化人類学:進化的歴史的心理学についてのエッセイ(Anthropology of violence and culture of self-organization:Essays on evolutionary historical psychology)』、2010年に『非暴力の進化。ビッグ・ヒストリー、自主的組織、歴史的心理学の研究(Evolution of non-violence.Studies in big history,self-organization and historical psychology.)』などの本を出版している。

ナザレチャンはビッグ・ヒストリー・コースの課題として、この学問のコンセプトと基礎を検討し、宇宙・地質・生物・社会進化のメガトレンドを明らかにすること、もしも、人間の歴史が、宇宙の進化と調和して、単一の、統合された過程を有するとするならば、歴史以前と知性の進化を考慮し、技術と人間行動の制御と持続性の間のバランスを研究し、長期的観点にもとづいて、21世紀のクロスロードとドラマを考えなければならないと主張している。

レオニード・グリーニン

レオニード・グリーニン(LeonidGrinin)は歴史哲学者、社会学者である。彼はヴォルゴグラード(旧スタリングラード)地方に生まれ、ヴォルゴグラード教育大学で1980年に博士候補(修士)号の学位を取得し、国立モスクワ大学で1996年に博士(Ph.D.)号を受けた。

彼はヴォルゴグラード社会調査センター所長・研究教授であり、歴史、現代化、哲学、社会などの雑誌の副編集長、雑誌『社会的進化&歴史』、および、『グローバリゼーション研究ジャーナル』、年鑑『歴史&数学』および年鑑『進化』の共同編集者である。

グリーニンの現在の研究関心はグローバリゼーション研究、経済サイクル、文化的進化の長期トレンド、テクノロジーの進化、歴史の時期区分、政治的文化人類学、政治システムの長期的発展、世界システム研究である。

時期区分について、彼は狩猟-採取、手工業-農業、工業、情報科学の四つの生産原則にもとづく時期を挙げ、その区切りとなった農業革命もしくは新石器革命、工業革命、情報技術革命の三つの生産革命の意義を指摘している。

政治システムの発展について、彼は早期国家(Early State)と成熟国家(Mature State)のマクロ国家の二段階説は十分ではないと主張し、早期国家―発展国家(Developed State)―成熟国家の三段階説を提起している。

アンドレイ・コロターエフ

アンドレイ・コロターエフ(Andrey Korotayev)は文化人類学者、経済史家、社会学者である。彼は世界システム論、クロス・カルチャー研究、中東史、社会・経済マクロ・ダイナミックスの数学的モデル化に貢献した。

彼は1961年にソヴェトの首都モスクワに生まれ、国立モスクワ大学から1984年に学士号、1989年に博士候補(修士)号を授与され、1993年に英国のマンチェスター大学から博士(Ph.D.)号、1998年にロシア科学アカデミーから科学博士の学位を受けた。

彼は2000年からモスクワにある国立ロシア人文科学大学東洋文化人類学センター教授・所長とロシア科学アカデミー東洋学研究所およびアフリカ研究所の上級研究教授となった。また、2001年から2003年までモスクワにある国立研究大学経済学高等スクールの「東洋文化人類学」プログラムを指導した。2003年から2004年にかけては米国プリンストン大学高等研究所客員研究員であった。

彼は年鑑『歴史&数学』、および、雑誌『社会的進化&歴史』、『グローバリゼーション研究ジャーナル』などの共同編集者である。

彼は2006年の「ロシア科学アカデミー・ベスト・エコノミスト」にノミネートされ、ロシア科学支援基金から賞を受けている。

コロターエフの主著は2006年の『社会的マクロ・ダイナミックス入門(Introduction to Social Macrodynamics)』である。

バリー・ロドリーグとダニエル・スタスコ

バリー・ロドリーグ(Barry Rodrigue)は米国メイン州ルイストンにある南メイン大学ルイストン=アーバン・カレッジ芸術&人文学部准教授で、地理学者・考古学者である。セント・ローレンス川とメイン湾の間にあるノルムベガ半島のビッグ・ヒストリーを研究し、北アメリカにおけるフランス人と先住民の相互作用に関心を持っている。

ダニエル・スタスコ(Daniel Stasko)はロドリーグと同じ南メイン大学ルイストン=アーバン・カレッジの自然&応用科学学部助教授で、合成化学者である。

ロドリーグとスタスコは2009年にモスクワで開催されたロシア科学アカデミー第5回国際会議「文明史におけるヒエラルキーと権力」の後、「ビッグ・ヒストリー人名録、2009年:入門」を『World History Connected』Vol.6 No.3に発表した。この人名録は2010年版も出ている。

二人はまた2010年9月に論文「予備的観察:今日のビッグ・ヒストリー」を『社会的進化&歴史』Vol.9 No.2に発表している。

このように、現在、世界の各地で活躍しているビッグ・ヒストリーの研究者・教育者はきわめて多才な専門家であるが、中でも際だっているロドリーグについてもう少し語ろう。