シンポジウム「いま、イスラム世界を考える —現在の国際情勢とイスラムとの共存」

事務局

2002年7月14日 かながわ県民活動サポートセンター

木我 公輔 (きが こうすけ)
蒲生 裕恵 (がもう ひろえ)
玉井 秀樹 (たまい ひでき)
岩木 秀樹 (いわき ひでき)

「現在のエジプトにおけるパレスチナ連帯運動」(木我 公輔)

中東では1970年代までは国家対国家の戦争が多かったが、その後国家対武装集団の戦争といった非対称紛争が増えている。イスラエル対パレスチナ人の抵抗運動もその一つである。

2002年3月、パレスチナ自治区へのイスラエル軍の侵攻を契機に、エジプトでは親パレスチナ連帯運動が広がった。各都市でデモが発生し、米国製品のボイコット、イスラエルへの越境行動、さらにはエジプト政府批判まで発展した。運動の組織化の動きもあったため、政府は指導者の逮捕も行った。しかしイスラエル軍の一時撤退もあって、運動は次第に沈静化した。この運動はエジプトの社会状況を反映したものであり、パレスチナ連帯とエジプトの体制批判の二つの性格を持ったものであった。

「シリア・ヨルダンでの体験とパレスチナの現状」(蒲生 裕恵)

イスラム社会では、敬虔なイスラム教徒の方が社会で信頼が厚く、日本でのイスラム教徒イメージとは異なる。同じイスラム教徒でも国、地域、家庭によってかなりの多様性がある。モスクは単なる祈りの場所ではなく、日常生活の相談所にもなっている。

パレスチナの運動はテロではなく抵抗運動である。9・11事件以後、イスラエルによるパレスチナへの攻撃は激しさを増してきている。生きるだけで精一杯の出口のない状況ではあるが、イスラエルにも平和組織があり、今後の対話が期待される。

在日アラブ・イスラム教徒も9・11事件以後大きく環境が変化し、偏見の目で見られるようになった。彼らは日本人に対して、金銭的な援助よりもパレスチナへの支持を望んでいる。パレスチナ問題の根本は単なる宗教紛争ではなく、政治問題であり、その原因を取り除いていかなければならない。

「イスラム・レジスタンスにどう応えるか −『旧教』世界の対応の問題点と非暴力的解決の可能性−」(玉井 秀樹)

ユダヤ・キリスト・イスラムは同一の神を信奉する宗教である。しかしイスラエル=ユダヤ教世界と米国=キリスト教世界を、イスラムと比して「旧教」世界と捉えると、イスラム世界の「抵抗」に対する「旧教」世界の力の行使という観点が可能になると思う。

言い換えれば、パレスチナ/イスラエル紛争とイスラム過激派/米国の「テロ」戦争を、欧米主導の国際社会システムに対するイスラム世界からの異議申し立てとして考え、これを「イスラム・レジスタンス」という問題として捉えるということである。

イスラム・レジスタンスの暴力的抵抗と力による対抗というこれまでの挑戦・応戦のパターンではない非暴力的解決の方法として以下の点が考えられる。自らの側のみに正義があり、相手は悪魔であると捉えないこと。紛争の真の原因である経済的格差や政治的権利の抑圧をなくすこと。第三者としての国際社会介入の必要性。異議申し立ての制度を確保した上で、暴力主義的抵抗を犯罪として対処すること。自衛権の発動としての「対テロ」戦争も違法化していくことなどである。

「イスラムの歴史と共存」(岩木 秀樹)

イスラムは都市、商業の宗教であり、第三の一神教として成立した。イスラムが比較的寛容だとされる要因として、商業・交易的環境には他者の存在が前提となっている点とモーゼやイエスも預言者として認める預言者の多元性が考えられる。

中東イスラム世界では常に紛争があったわけではない。しかし近代に入り、西洋の衝撃を受け、ナショナリズムが台頭する中で問題が生じるようになった。80年前のオスマン帝国の崩壊後、新たな中東イスラム世界が作られたが、いっこうにポスト・オスマン・シンドロームは解消されていないのが現状である。

現在の様々な紛争原因を宗教対立のみに還元するのは問題である。話し合いのメカニズムを作り、不満を表出させる機会を設け、政治的経済的格差を是正し、社会的安定を構築する必要がある。原因を取り除けば、憎悪や対立は低減できるのであり、もう一度共存の歴史に学ぶ必要がある。